一般的には絵本の表紙には作者の名前しか印刷されていませんが、絵本は絵本作家一人で作っているわけではありません。作家と担当編集者と編集部スタッフとブックデザイナーの意見やアイディアを取り入れて一冊の絵本を作り上げていきます。
ぼくの絵本作りには欠かせないメンバーであったブックデザイナー津久井康宏さんが今年の夏に亡くなりました。そして、秋に江ノ島で津久井さんとのお別れ会がありました。
ブックデザイナーの津久井さんとは、福音館書店編集者の紹介で神奈川県葉山町に住んでいた時に知り合いました。津久井さんとはアウトドアの趣味も一緒ですぐ意気投合し、家も近所だったので家族ぐるみのお付き合いになりました。毎月海岸でのバーベキューパーティーや年末恒例の餅つきなどを家族で楽しんでいました。
彼と最初にした仕事が月刊絵本かがくのとも(福音館書店)の折り込みでした。連載「ジャムさんちのクリップボード」は1997年4月号から24回2年間掲載されました。毎月テーマを決めて取材をし原稿締め切り日まで練りにねったアイディアを出し合って書き上げていました。毎月絵本を一冊書いているような忙しさで大変でしたが、すごく楽しかったです。
折り込みの仕事を終了してから書いたのが、月刊絵本かがくのとも1999年7月号「なぞなぞすなあそび」(福音館書店)でした。この絵本のデザインを津久井さんにお願いしました。そして、絵本を制作するためのチームを作ることになりました。津久井さんからは写真家の梅田正明さんを紹介していただきました。チームで砂浜のロケハンから本撮影での砂の造形作品も一緒に作り、ぼくと津久井さんの子どもにもモデルになってもらい完成させた絵本です。
津久井さんとの出会いでぼくの絵本作りも変わりました。その頃アップルコンピューターのMacを購入して使い始めました。津久井さんはぼくのパソコンの師匠でした。どんなソフトを使えば何ができるのか教えていただき色々試していました。そして、初めてMacを使って作った絵本が月刊かがくのとも2003年11月号「ふしぎないえづくり」(福音館書店)でした。工作はアナログ作品ですが、絵本の製作はデジタルになりました。新しい道具を使うことによって、絵本の表現方法も広がりました。
絵本「くだものなんだ」(福音館書店)は沖縄県の石垣島に住んでいた時に作りましたが、デザインの打ち合わせで担当編集者と一緒に津久井さんも石垣島まで来ていただきました。
津久井さんとの最後の仕事が月刊絵本かがくのとも2019年5月号「なにがみえるかな?」(福音館書店)でした。優秀なデザイナーと一緒に絵本を作っていると、新しいアイディアがどんどん生まれてきます。ぼくのアイディアをデザイナーが整理整頓してわかりやすく表現してくれます。特に絵本の表紙はデザイナーの力量が大きいです。
その後もお願いしたい絵本のデザインがあったのですが、ぼくの仕事が遅くて完成には至りませんでした。一人で作る絵本よりも優秀なメンバーがいるチームで作る絵本は、アイディアが3倍4倍と膨らんで、より魅力的な絵本になります。津久井さんと一緒に作った絵本はかけがいのないものになりました。もう一緒に絵本を作れないことは、寂しい限りです。絵本作りで毎回新しい挑戦ができたことは津久井さんのおかげだと思っています。ありがとうございました。謹んでご冥福をお祈り致します。
*写真の絵本は全て津久井さんがデザインしました










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