2019年8月1日木曜日

ワークショップの報告

7月21日(日)夏の3331こども芸術学校「夏休みおもちゃ創作教室」が開催されました、
ワークショップの様子は福音館書店の公式Webマガジンふくふく本棚をご覧ください。

2019年7月5日金曜日

ワークショップのお知らせ

7月21日(日)東京で子ども向けワークショップを開催します。
詳しくは下記サイトをご覧ください。



2019年5月19日日曜日

かがくのとも5月号「なにがみえるかな?」ができるまで


(写真は冬のロケハン)

 絵本が出版されるまでには様々な工程があります。

1、企画(アイディアとテーマ)
2、ラフスケッチ(本書きの前にイメージしたものを簡単に描いたもの)
3、プレゼンテーションと編集会議
4、本書き(本番に使われる原稿)
5、出校
6、校正
7、本刷り
8、製本

ここでは1の企画から4の本書きまでの過程についてお話します。
絵本のスタートは、まだ真っ白な状態で紙には何も描かれてはいません。
人それぞれですがぼくの場合は、完成した原稿を印刷所に入稿するまで最短でも2年から3年ぐらいかかります。
ページ数は少ないですが、1つのアイディアが絵本の形になるまでには、試行錯誤を繰り返したくさんの時間がかかります。

1、企画

 絵本は出版社が立てた企画で依頼される場合と、作者が自分で企画して出版社に持ち込む場合があります。「なにがみえるかな?」は自分で企画して持ち込みました。

 「なにがみえるかな?」のスタートは、影絵遊びです。
紙を適当にちぎってから折り曲げて光にかざすと、ちぎった紙の形が影となり映ります。その形が何に見えるかを想像する見立て遊びです。この遊びはぼくが子どもの頃からしていました。大人になってからも子どもと一緒にしていた遊びです。この遊びを絵本にしたいと思いました。なぜそう思ったのか?それについては「なにがみえるかな?」の付録かがくのとものとも「作者のことば」で書きましたので、そちらをご覧ください。

 最初は絵本という形を意識しないで、この遊びを何日も続けて面白いと思える素材をたくさん集めました。様々の紙をちぎっては折り曲げて光にかざしてみました。その中で最初に見つけた面白い形が富士山でした。新聞紙の角をちぎって折り曲げて光にかざすと大きな富士山が現れました。

2、ラフスケッチ

 素材がたくさん集まったところで、絵本にするための物語を考えました。影絵遊びを紹介するだけの絵本ではなくて、家族の物語にしたいと思ったからです。そこで素材からどんな話が作れるか構想を練り、コマ割りのラフスケッチを起してアイディアを形にしていきました。影絵の素材から物語をイメージすることもあれば、物語から影絵をイメージすることもありました。電車のライトは物語からイメージしたので、見つけることができた影絵の形です。

3、プレゼンテーションと編集会議

 どの段階で編集者にプレゼンするかは、著者と編集者との信頼関係によって違います。今回の担当編集者は何度も一緒に作品を作ってきた編集者でしたから、企画の段階から相談して進めることができました。作品が絵本になるには編集者の力が不可欠です。編集者が作品を絵本にしたいと思わなくては、絵本になるための土俵には上がれません。土俵とは編集会議のことです。仮に編集者が作品を気に入ったとしても、編集会議で認められなくては企画が通りません。編集会議に著者が出席することはないので、担当編集者に任せるしかないのです。著者は描いたラフを担当編集者に見せて意見を聞きます。担当編集者は編集会議で他の編集者に見せて意見を聞き著者に伝へます。絵本が完成するまでには多くの意見を聞いて構想が練られていきます。

 「なにがみえるかな?」はラフとプレゼンだけで1年以上の時間を費やしました。今回は写真絵本で構成するのが良いということはすぐに決まりました。絵本の物語をどういう設定にするかは試行錯誤しました。電車での親子の旅という設定に決まるまで、いろいろな設定を考えて試してみました。物語の設定が決まってからもどう表現するのがベストなのか何度もラフを描きなおしました。作品はプレゼンと編集会議にかけられて形ができあがっていきました。

4、本書き

 「なにがみえるかな?」は写真絵本なので撮影が本書きになります。イラストだけならば自分が描けば良いのですが、写真の場合はカメラマンや登場人物を準備しなくてはなりません。そして一番の課題は撮影場所です。まず最初に編集者と二人でロケハンに行きました。ロケハンとは撮影の下見のことです。ラフスケッチでイメージしたことが実際にできるのか?どうすればイメージ通りの作品ができるのか?を確かめるためです。本撮影(本番に行う撮影)の半年前に編集者と二人で江ノ電と湘南モノレールに乗車して試しました。そこでイメージした作品ができることを確認することができたので、次は本撮影をどこでするか、カメラマンを誰に依頼するかを決めました。
 カメラマンを中乃波木さんにお願いすることが決まりました。中さんと一緒に仕事をするのは初めてでした。中さんはいしかわ観光大使をされているのでコーディネーターもお願いしてのと鉄道での撮影許可とモデルの親子も手配していただきました。そして、冬に編集者と二人で金沢に向かい中さんとモデルさんに初対面しました。その後カメラマンの中さんも一緒に3人でのと鉄道に乗車してロケハンを行いました。のて鉄道に乗車するのは初めてでした。
 撮影では絵本の物語と同じ順番で影絵を撮影していません。物語の親子旅は創造した列車での旅なので、現実に存在する路線とは違います。写真絵本のラフはできあがっているので、どういう風景でどの影絵のカットを撮影するかを決めなくてはなりません。走っている電車の窓から風景を眺めなが、どのカットがラフと同じ感じになるかを決めていきます。撮影本番でも電車は走っているので、撮影したいカットの風景がいつ現れるかを知っていなくてはなりません。狙った風景が車窓から見られる前に影絵を準備して、風景が現れたと同時にシャッターを押します。適当にシャッターを押してたくさん撮った写真の中から選んで絵本に使っているのではありません。1カット1チャンスという緊張した中での撮影です。カメラマンも大変ですが、モデルも失敗できません。ロケハンではのと鉄道を数回往復して撮影カットの場所を決めて、その風景が現れるタイミングの時間を計りチェックしました。
 本撮影は初夏に決定しました。冬のロケハンでは、のと鉄道の車窓からは雪が積もった田んぼがたくさん見えました。初夏ならば田植えが終わった田んぼに成長した稲が青々しく広がっているだろうと思ったからです。
 撮影本番当日は天気も晴れました。予想したとおりに田んぼの稲も山も青々としてラフスケッチと同じ美しい景色が広がっていました。モデルになっていただいた樂くんと会うのは2度目ですが、遊び友達という感じでリラックスしていました。彼はプロのモデルではありませんから、仕事の撮影ではなく一緒に電車に乗って遊んでもらえるよう心がけました。撮影は朝早くから陽が傾くまで、のと鉄道を数回往復して無事完了しました。
 一人で絵を描く場合は、1日で描き終えることはありません。撮影はうまくいけば1日で終わりますが、そのための準備とたくさんの人の協力と一緒に仕事をやり遂げる忍耐力が必要です。みんなで一緒にする作業は、一人で行うとき以上に緊張します。どちらも樂はできません。


 東京に戻り撮影した写真を見ながら絵本を作り上げていきます。ここからはデザイナーさんにも加わってもらいます。デザイナーの津久井さんとは20年以上一緒に絵本を作ってきました。著者のアイディアをより優れたものに仕上げてくれる強い味方です。写真を選びレイアウトをしてネーム(文章)も書き直します。この作業を何度も繰り返し絵本ができあがっていきます。
 
 絵本は簡単に作られているように見えますが、実はたくさんの人と時間とお金が費やされています。

2019年4月26日金曜日

著作物の利用について

 4月に著作物利用の依頼が2件ありました。1つは絵本を複写機で拡大コピーして見せたい。もう1つは絵本をプロジェクターで拡大して見せたい。複写機での拡大コピーは許可していませんが、プロジェクターを使って拡大することは許可しました。
 昨年6月に著作物利用についてルールを一部変更しました。同じ内容を記載します。
ご了承ください。

著作物の利用について

著作物の利用について、一部変更します。

 営利目的または非営利目的で、絵本を使って朗読したい。
その方法として、

① 絵本を複写機で拡大コピーしたものを見せたい。

② 絵本をプロジェクターやパワーポイントやキーノートで拡大投
  影して見せたい。

現在まで①と②の方法は許可していませんでした。
「やさいのおなか」を上演するために大きな画面で見せたい場合は、アプリ「やさいのおなか」を使用するか、または手作りによる作品(絵本を模写して大型絵本や紙芝居を作る)で、上演するときには原作の絵本を見せることを条件として許可していました。

①の方法については、今後も許可いたしません。

 現在アプリ「やさいのおなか」の販売が終了していること。
またアプリを持っていてもiPadまたはiPhoneのOSが新しいものではアプリが起動せず見ることができません。
そのため、②の方法については、著作物利用許可申請をしていただければ許可いたします。

 現在も絵本の読み聞かせボランティアグループからの「やさいのおなか」著作物利用申請が多く届いています。特に多い申請がパネルシアターの製作です。模写したものは原作よりも絵の質が落ちるかもしれませんが、自分たちで模写して作品を作ることで新たな発見がありより深く作品を理解することができます。そして、ものづくりの楽しさを皆さんで共有できて、作品が宝ものになります。手間はかかりますが、ボランティアさんだからこそできる貴重な体験です。できれば、手作りの作品を製作することを推奨します。

2019年4月2日火曜日

新作「なにがみえるかな?」できました!


福音館書店 月刊かがくのとも5月号「なにがみえるかな?」

 新作絵本ができました。今回は写真絵本です。電車のボックスシートに座り紙をちぎって作品を作り、それを折り曲げて窓にあてると影の形が現れます。電車の窓がキャンバスになります。そして窓から見える景色も作品に欠かせない物語を演出します。
 実際に業務運行している電車の中での撮影は、スタッフ全員緊張してスリル満点でした。一人で描く作品とは違いチームワークがうまく働かないとできない作品です。いつもとは違う状況の中での作業は大変ですが、うまくいった時の達成感は一人の時よりも大きいです。トライアスロンと同じで、ゴールした後のビールは最高に美味いです。それも一人で飲むよりもみんなで飲むほうがより美味い!とは言っても今回の主人公は子どもなのでビールではなく甘味ものでの乾杯でした。
 どのようにこの作品ができたのか?次回は撮影風景の話をします。まずは作品を手にとってご覧ください。

2019年3月31日日曜日

石ころいも


 もう30年も前になりますが、毎月日本の川をカヤックで下る旅をしていました。分解したカヤックを入れたバッグを背負って、電車やバスを乗り継ぎ川の上流まで行き、河原に着くと一人乗り用のカヤックを組み立て、中に一人分のキャンプ道具と食料を積み2~3泊河原でキャンプをしながら川を下りました。川下りの旅をするようになってから、石の魅力に気づきました。自然の中で生まれた石はどれも同じものはなく個性がありました。生物や植物と同じように鉱物も自然の中で生きていると感じました。どんな石にも永い年月の物語があるのだろうと想像しました。
 
 当時住んでいた葉山の海岸には権太郎岩という伝説の岩があります。釣りが大好きな爺さんが毎日釣りをしていたらいつの間にか岩になってしまったというのです。石垣島にも岩になった娘の話がありました。日本には石や岩の伝説がたくさんあります。
 人は石や岩にも魂が宿っていると信じて、石や岩に隠された物語を創造しました。きっと自然の中で生まれた石や岩にも存在する理由があるのでしょう。

 春の訪れとともに雪が溶けころころ石がころがります。生命は奇跡でできている。そして、物語が始まります。



2018年10月6日土曜日

絵本あそびワークショップの報告

9月24日((月)かごしまメルヘン館で絵本遊びワークショップが開催されました。参加者は親子(保護者と子ども)30組で、絵本「はじめてのおつかい」筒井頼子・作 林明子・絵 福音館書店刊 を読んでから「お買い物ごっこ」をして遊びました。初めての場所で初めてお会いする参加者とワークショップをする場合は、このプログラムをよく選びます。

*「お買い物ごっこ」の遊び方は「木内かつの絵本あそび」福音館書店刊をご覧ください。



みんなが一緒に遊べる「お買い物ごっこ」

 なぜ「お買い物ごっこ」遊びがよいのか?一番の理由は、お互い知らない家族同士でもみんな一緒に遊べるからです。初めての場所で初めて出会った子どもたちは、みんな緊張しているので親(保護者)の側から離れようとはしません。親(保護者)も自分の子どもが気になります。その緊張している空気をあっという間にほぐして一緒に遊べるのが「お買い物ごっこ」です。
 絵本を読み始める前に子どもたちは親から離れて絵本が良く見えるように前に移動してもらいます。それから絵本を読みます。絵本を読んでから子どもたちに聞きます。「一人でお買い物をしたことある人?」「一人でもお買い物ができる人?」元気よく手をあげる子どももいれば、親(保護者)の顔を探して様子を伺う子もいます。「これからお買い物ごっこをします。本当に一人でお買い物ができるかな?」こうしてお買い物ごっこが始まります。

最初に自分の買い物かごを作る

 子どもたちは親のいるところに戻ります。そして子どもも親(保護者)も自分専用の買い物かごをそれぞれ作ります。

お店の準備と買い物に出かける準備

 お店の準備は親(保護者)にしてもらいます。お店に並ぶ商品はチラシを使います。スーパーマーケットや住宅や車など様々なチラシから商品の写真を切り取ります。それらを床に並べて売りす。(写真1参照) 
 親(保護者)がお店の準備をしている間に子どもたちは買い物をする準備をします。自分の買い物かごを持ち一箇所に集まります。(写真2参照)
「お買い物をするときに、絵本のみいちゃんはなんと言ったかな?」ぼくが子どもたちに聞きます。思い出した子どもが「ください!」と答えます。「お店に入って買い物をするとき、みんなはなんて言うのかな?」子どもたちはみんな訳がわからないという顔をしています。買い物は小さい頃からコンビニやスパーマーケットというのが当たり前ですから、お店の人に声をかける習慣はありません。大人も子どもも黙ってお店に入り商品を取りレジに持っていきお金を払い買ったら黙ってお店を出ます。お店の人もお客さんにマニュアルの言葉をかけるだけです。そこには会話がありません。子どもたちはお店でものを買うときに「ください」という言葉をかけた経験がありません。そこで子どもたちに説明します。「今日はこれから特別なお店でお買い物をするので、お店で買い物をするときには必ず最初に「ください」とお店の人に声をかけてください。黙って商品を取るのではなく挨拶してください。でもちょっと恥ずかしいから、みんなで「ください」の練習をしましょう。」みんなで一斉に「ください」と声を出します。最初は小さい声ですが2度3度と繰り返すうちにだんだん元気な大声がでてきました。「これだけ大きな声が出れば、お店の人も小さなお客さんに気づいてくれるから大丈夫だね。さあお買い物に出発!」こうして子どもたちは買い物に出かけます。子どもたちは好きなお店で買い物をします。お店の親(保護者)も大きな声で客を呼び込まないと商品を買ってもらうことができません。お金は見えないお金(想像したお金)を使います。お金を払ってお釣りももらいます。お店ではセールが始まったり、おまけをつけたり大きな声でお客さんを呼び込みます。会場はお祭りのように賑やかになります。




「買い物ごっこ」遊びは、コミュニケーション遊び

 15分ほど買い物をすると子どもたちの買い物かごにはたくさんの商品が貼られました。ここで今度は親(保護者)と交代します。子どもたちがお店やさんになり、親(保護者)が買い物かごを持ってお客さんになります。親(保護者)にも一箇所に集まってもらいます。そして子供たちと同じようにお店で買い物をするときになんて声をかけるか聞きました。20代から30代の若い親(保護者)世代は、子どもたちと同じように子どもの時から個人の商店よりもコンビニやスーパーマーケットで買い物をしています。お店の人になんと声をかけるか、言葉が返ってきません。
 ぼくは昭和32年生まれで東京の下町で育ちました。子供の頃は毎日駄菓子屋に行きおこずかいで買い物をしていました。そして、お店に入るときには「くださいなー!」と声をかけて戸を開け店に入りました。黙って入るとお店のおばあさんに叱られました。駄菓子屋での買い物は、大人(店主はおばあさんかおじいさん)と会話を通して社会勉強をする場所でした。ぼくと同じか上の世代の人は、買い物をするときにはお店の人に声をかけていました。その声のかけかたが地域によって違います。各地域で生まれた方言が使われます。「買い物ごっこ」遊びを各地でおこなってきて楽しいのは、その地域によって声かけの言葉が違うことです。鹿児島ではどんな言葉かけをして買い物をするのか楽しみでした。
 最初は子供たちと同じように声かけの言葉が思いつかないようでしたが、一人のお父さんが「若い人は使わないが、おじいさんが [くいやん] とか[くいやんせ] って言う」と教えてくれました。また一人のお母さんが「ください」のイントネーションが東京とは違いKUDASAI の KUの語尾が上がると教えてくれました。普段は気にしないで言葉を使っているので、突然聞かれても気づかないのかも知れません。しかし、どこの地域でもそこで生まれた言葉は必ずあります。今はあまり使わなくなった言葉ですが、今回はこの言葉を使って買い物ごっこ遊びをしていただきました。
 言葉は文化です。今の社会では会話を交わす機会が少なくなって、どんどん言葉が失われています。子どもたちが集まってもスマフォゲームではほとんど会話がありません。「買い物ごっこ」遊びはコミュニケーションを豊かにする遊びです。

よいやんせ

 1時間30分のワークショップはあっという間に終わりました。子どもも大人も大きな声で賑やかな買い物ごっこをして楽しい時間を過ごすことができました。最近はお父さんが積極的に参加されるようになりました。一昔前は見ているだけのお父さんが多かったのですが、今回も声を出して恥ずかしがらずに子どもと遊んでいたので嬉しかったです。
 別府までの帰り道に地元の野菜を買って帰ろうと市場に立ち寄りました。そこの看板には「よいやんせ市」と書いてありました。「よいやんせ」は「よってらっしゃい」と言う意味です。素敵な看板だなと思いました。


 

(*使用している写真はプライベート保護のために一部加工してあります。)