絵本の読者が、図書館で開催されている「お祭り」展示会のお知らせを、写真と一緒にメールでぼく宛に知らせてくれました。
山形県酒田市立中央図書館で「おまつり」の企画展示の中に「つくってあそぼう おまつりやた」かがくのとも2006年2月号が展示されています。
https://miraini-sakata.jp/sakata-lib/event_tenji/?id=991
「つくってあそぼう おまつりやた」かがくのとも2006年2月号 (福音館書店)は、今から17年前ぼくが40歳代後半に書いた絵本です。この頃は東京都内の幼稚園で年少から年長までのクラスで造形遊びをしていました。子どもたちと遊んでいると毎回新しい発見があり、勉強になりました。それは今でも同じで、幼い孫と遊んでいると驚かされることばかりで新鮮です。ただ、昔と違うのは自分の身体が思うようにはついていきません。気持ちだけは変わらないうように心がけています。
毎月出される絵本「かがくのとも」には折り込みふろくがついています。そこには「作者のことば」というコーナーがあり、作者が作品について書いています。この折り込みふろくは雑誌だけについているもので、ハードカバーにはついていません。今回はこ時に書いたものを、一部加筆して紹介します。
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子どもの世界
ぼくは幼稚園で子ども達に絵本の読み聞かせをしてから造形遊びをしています。一回たった2時間ですが、気力体力とも幼児にはかないません。なぜなら彼等はおもしろい遊びには決して手を抜かないからです。
大人は事実の世界で生きています。どんなに夢中になって遊んでいてもどこかで先のことを考えてしまいます。これ以上走り回ったら明日の仕事に支障がでるとか冷静に判断してブレーキをかけてしまいます。
用事は真実の世界で生きています。自分の気持ちに正直に走り回りたいだけ走り、食べたいだけ食べ自分が満足するまで止まりません。先のことを見越して物事を進めなくてはならない大人とは違います。
そんな幼児達と遊んでいると気分が爽快になりつい自分の限界を忘れて遊び過ぎてしまいます。でも必ず毎回目からウロコの大発見というおまけもつくのでやめられません。
今回の作品「おまつりやたい」にでてくる造形遊びは実際に幼稚園で子ども達が体験したことを絵本としてまとめたものです。
「わたあめ」は3歳児のクラスで大好評でした。子どもは本物のわたあめ作りに近い不思議な体験で夢中になって作っていました。ただくるくる回すだけの遊びですが、同じ形のわたあめができないところがミソです。ただひとつ予想外だったことがありました。それは、自分で作ったわたあめをおいしそうに食べはじめたのです。うその世界がいつのまにか真実の世界になっていました。そこで、食べられないように透明のポリ袋に入れたら、よりわたあめらしくなったという落ちがつきました。
「かめすくい」は、5歳児が遊び方を自分で工夫して、すくったカメを紙コップの上にいくつ重ねて置けるか挑戦していました。いつも子ども達の方がおもしろいことを思いつきます。大人もたまには真実の世界で遊んでみるのもいいですよ。
工作が絵本になるまで
工作のアイディアは、どこから生まれるのか?最初に造形遊びのテーマを決めます。子どもたちはごっこ遊びが大好きなので、今回はお祭り屋台ごっこ遊びをすることにしました。本当のお祭りで見るような屋台を真似して、子どもたちが作れて遊べる屋台を考えます。金魚すくいや綿飴やたこ焼きなどを、どんな素材で表現するか身近にあるものから材料を探します。頭で考えるのではなく、手を動かしながら身近なものを切ったり曲げたりして見立て遊びをします。すると画用紙の帯が金魚に見えたり、トイペの芯が亀に見えることに気が付きます。ジグソーパズルのピースを探しているのと同じ感覚です。見立てる素材が決まってきたら、次に作り方を考えます。子どもたちのハサミを使った作業を観察していると、3歳児と5歳児ではできる作業が違うことがわかります。そこで年齢に合わせた作業の難易度を考えながら、素材と作り方を決めていきます。ここで大切なことは、ものを作る過程がワクワクするものかです。作業が複雑だったり、時間がかかるものではモチベーションが下がり最後まで作れません。誰でも簡単に作れて楽しいと思えることが大切です。スズランテープ(幅広テープ)が綿飴に、トイペの芯が亀に変身させる作業は、見た手遊びが得意な子どもたちにとっては面白い遊びになります。
絵本「おまつりやたい」で作る工作ができたら、子どもたちとお祭り屋台ごっこ遊びはできます。しかし、屋台の工作を並べただけでは絵本にはなりません。「おまつりやたい」を絵本にするには、絵本としての物語や表現方法を考えなくてはなりません。絵本を見た子どもたちが、実際に工作を作りたくなり、お祭りごっこをしたくなるような絵本を考えなくてはなりません。これは工作を考える作業とは異なります。
今回は屋台で作るものを絵で表現するのではなく、実際に作るものと同じものを見せることでリアリティーを出すことにしました。でも全てを写真で見せる方法はとりませんでした。子どもや屋台を実物にしてしまうと、情報量が多すぎて工作の魅力が劣ると思ったからです。そこでリアリティーの部分は、工作の素材と見本だけにしました。そして、それらとイラストを組み合わせた半立体で奥行きがある不思議な空間を作り写真撮影しました。
子どもが持っている素材や工作は実物です。屋台に飾ってある工作はミニチア工作です。
絵本作りのキーポイントは物語の構成です。構成を考える上で重要なのがネーム(絵本の文章)です。お祭りを表現しているので、お祭りの雰囲気が伝わるような文章が良いと思いました。そこでお祭り屋台の魅力は何だったのか、子どもの頃を思い出してみました。ぼくは子どもの頃から縁日やお祭りが大好きでした。子どもでも日が暮れてから出かけることができる縁日やお祭りは、子どもにとって特別な遊び時間でした。明かりが灯った屋台の前に大人が溢れる中をかき分けて一番前に出ると、怪しいおじさんが棒を板に打ちつけパンパン音を立てながら早口で喋りまくっていました。それは香具師が客にものを売る時の口上で啖呵売と言うものでした。現在はお祭りで啖呵売を見かけなくなりました。唯一見れるのは、映画「男はつらいよ」シリーズに登場する寅さんの啖呵売です。ぼくが子どもの頃は、バナナの叩き売り、瀬戸物(陶磁器)、日本人形、唐辛子などいろいろな啖呵売を生で見ることができました。啖呵売の言葉の意味はわからなくても、子どもでもワクワクする面白いものでした。この口上がお祭り屋台の一番の魅力だと思いました。そこで、この口上を絵本のネームに取り入れることにしました。七五調で気持ち良いリズミカルな言葉が、お祭りを盛り上げます。
子どもたちに絵本の読み会かせをするときは、新聞紙を丸めて作ったたたき棒でパンパン叩きながら読む演出をすると楽しいと思います。
写真左側はハードカバーの「おまつりやたい」です。購入希望の方は、木内までメールでご連絡ください。
ハードカバーは900円+Tax 月刊誌は410円(税込) どちらも送料は別代金になります。
きうちかつ qkatsu@icloud.com
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