2021年5月30日日曜日

「かえるや」ができるまで ③

 2019年4人のチームになり、表現方法を試す

 かえるの工作と絵本の構成がまとまってきたら、今度はそれらをどう表現するかを決めます。イラストにするのか、写真撮影にするのか、表現方法は無限にあります。謎のかえるやという主人公を考えたときに、一つの方法を試してみたいと思っていました。それは、立版古(たてばんこ)と言う江戸時代のおもちゃで、浮世絵版画を切り抜いて平べったい紙の人形や建物に糊をつけて立たせ、奥行きのある3次元の舞台空間を作る模型のようなものです。このレトロな手法なら怪しい露天商の雰囲気を面白く表現できるのではないかと思いました。




*立版古の試作品

 かえるやのイラストを描きプリントして、立版古の模型を作って見ました。その見本をもとにどんな表現ができるのか、いろいろ試すことになりました。そのために今まで編集者と2人だけだったチームに、デザイナーとカメラマンが新たに加わることになりました。

 

 2019夏にテスト撮影を行いました。立版古をイラストにするか、実写版にするかを決めるための撮影です。このときに著者が剣道着を着てモデルになりました。その写真を使って、デザイナーが一場面のサンプルを作りました。その後4人での共同作業が進み、絵本の形が見えてきたところで、12月に本撮影を行いました。



*テスト撮影で自前の剣道着を着てモデルになった著者



*本撮影で実際に使った、かえるやの立版古

2021年5月29日土曜日

「かえるや」ができるまで ②

 2017~18年テーマを決めて構成を練る

 かえるの工作を絵本にするためには、まず最初に絵本のテーマを決めます。何を表現したいのか、読者に何を伝えたいのかを書き出します。それが決まってから、絵本作りにとりかかります。

 テーマが決まると、次に本の構成を考えます。ぼくの本作りで一番時間をかける作業になります。アイディアを練っていくつものラフを描きます。

 料理で例えるならば、最初の工作が素材集めです。次にテーマを決めて、その素材からどんな料理を作るか、和風、洋風、中華風などあらゆる料理を試します。一番テーマに合った料理の構成を考えて、どのような調理方法がベストなのか、具体的に作っていきます。


 構成を練っているときに絵本のタイトルが閃きました。「かえるや」です。それから、かえるやという謎の人物のイメージを思い浮かべました。その謎のかえるやは、どんな人物でいったいどんなかえるを作るのか?謎のかえるやは、ただのかえるは作らない。動くかえるや遊べるかえる、びっくりするようなかえるを作って、子どもたちを魅了します。

 妄想する時間はいくらあっても飽きません。著者にとって苦しい時間でもあり、楽しい時間にもなります。

 

 工作から始まった絵本ですが、物語に合わせてかえるの工作も変化します。一番最初に作ったシンプルなかえるも、完成品はせなかを擦ると鳴いて、おなかも膨らむかえるにアレンジしました。

 試作品の中で最後に生まれたのが、「おたまじゃくしはかえるのこ」です。童謡としても有名なこの歌詞を、おもちゃの形にできないかと考え作りました。こうして2018年にはたくさんの試作品の中から選び抜かれた4匹のかえるたちが誕生しました。


 この頃は大分県に移住していました。「かえるや」の工作に使う牛乳パックを探していて、目に止まったのがスーパーマーケットやコンビニで販売されていたみどり牛乳でした。緑色でシンプルなパッケージデザインの牛乳パックが、かえる工作にはぴったりだと思い九州乳業株式会社さんに協力をお願いしました。みどり牛乳との巡り合わせも、不思議なご縁だと思いました。


*絵本に載らなかった、かえるの試作品

2021年5月28日金曜日

「かえるや」ができるまで ①

2010年最初のかえるを作る

 絵本「かえるや」ができるまでにどれくらいの時間がかかっていると思いますか?「かがくのとも」は毎月刊行されている月刊誌です。「かえるや」も2021年6月号の雑誌として刊行されました。流行を意識したり追いかけてタイムリーな記事を載せる雑誌とは違い、単行本と同じような作り方をしています。読者から長く愛される絵本になるように、贅沢に時間を費やして丁寧に作っています。



 ぼくの工作絵本の作り方は、工作から始める場合と物語から始める場合があります。「かえるや」は工作をまず考えてから、物語を作りました。一番最初に作ったかえるは、なきがえるです。2010年(平成22年)に「ジャムさんちのたからばこ」(かがくのとも2012年1月号)のアイディアを練っているときに生まれた工作です。「ジャムさんちのたからばこ」は、ジャムさん家族を登場させる物語として考えていたので、物語に合わないかえるの工作は使いませんでした。でも作品としてはとても気に入っていたので、いつかこのかえるをデビューさせようと思っていました。



*この頃は沖縄県石垣市に住んでいたので、
マリヤ酪農牛乳のパックで作りました。

 その後「ジャムさんちのふくぶくろ」(かがくのとも2014年12月号)が出版され、次に「なにがみえるかな?」(かがくのとも2019年5月号)を作っていた2017年に「かえるや」の構想が生まれました。「なにがみえるかな?」を作りながら、いろいろなかえるを試作していました。

 工作をしているときは、頭で考えるのではなく、手を動かしていろいろなことを試します。作る前に図面を引いたり完成図を描いたりせずに、いきなりハサミで牛乳パックを切って作ります。たくさん失敗しますが、作り続けているとおもしろい発見があります。何が生まれるかわからないところが、物作りの楽しさです。